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東京高等裁判所 平成10年(ネ)3675号 判決 1999年5月18日

甲事件控訴人(甲事件原告) A

甲事件控訴人(甲事件原告) B

甲事件控訴人(甲事件原告) C

右三名訴訟代理人弁護士 長谷川健

同 藤勝辰博

同 藤本卓也

甲事件控訴人(甲事件原告) D

右訴訟代理人弁護士 井出雄介

甲事件被控訴人・乙事件控訴人(甲事件被告・乙事件原告) 株式会社第一勧業銀行

右代表者代表取締役 E

右訴訟代理人弁護士 野村昌彦

乙事件被控訴人・甲事件被控訴人補助参加人(乙事件被告・甲事件被告補助参加人) F

乙事件被控訴人・甲事件被控訴人補助参加人(乙事件被告) G

乙事件被控訴人(乙事件被告) H

乙事件被控訴人(乙事件被告) I

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

(以下においては、甲事件控訴人Aを「一審原告A」、同Bを「一審原告B」、同Cを「一審原告C」、同Dを「一審原告D」、甲事件被控訴人・乙事件控訴人株式会社第一勧業銀行を「一審被告銀行」、乙事件被控訴人・甲事件被控訴人補助参加人Fを「乙事件一審被告F」、同Gを「乙事件一審被告G」、乙事件被控訴人Hを「乙事件一審被告H」、同Iを「乙事件一審被告I」といい、乙事件一審被告F、同G及び同Hを「乙事件一審被告Fら」という。なお、乙事件一審被告Iについては、適宜「I弁護士」ということがある。)

第一控訴の趣旨

一  一審原告ら(甲事件控訴)

1  原判決中一審原告らの一審被告銀行に対する請求に関する部分を取り消す。

2  一審被告銀行は、一審原告Aに対し金六一六万四八七八円、同B、同C及び同Dに対し各金二〇五万四九五九円並びに右各金員に対する平成六年九月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  仮執行宣言

二  一審被告銀行(乙事件控訴)

1  原判決中一審被告銀行の乙事件一審被告らに対する請求に関する部分を取り消す。

2  乙事件一審被告F、同G及び同Hは、一審被告銀行に対し各金四一〇万九九一九円及び右各金員に対する平成四年一一月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  乙事件一審被告Iは、一審被告銀行に対し金一二三二万九七五七円及びこれに対する平成四年一一月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4  仮執行宣言

第二事案の概要

一  前提となる事実(証拠の摘示がない事実は、争いのない事実である。)

原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」の一「前提となる事実」(原判決五頁二項目から七頁九行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  本件訴訟の概要及び経過

次のように訂正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」の二「本裁判の経過」(原判決七頁一一行目から九頁二行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決に対する訂正、付加)

1  原判決八頁一〇行目の「甲事件で敗訴したときの請求として」を「甲事件で敗訴する場合を慮り、あらかじめ」に改める。

2  同九頁二行目の次に改行して次の摘示を加える。

「3 原判決の内容並びに一審原告ら及び一審被告銀行の各控訴申立て

原審裁判所は、第一遺言及び第二遺言は共に遺言の効力を有せず、一審原告らは一審被告銀行に対しJの遺産に対する法定相続分に従った額の預金返還請求権を有していたが、一審被告銀行の乙事件一審被告Iに対する預金全額の返還は、債権の準占有者に対する弁済として有効であるから、一審原告らの右請求権は消滅し、一審被告銀行は一審原告らに対する預金返還義務を免れたと判断して、一審原告らの一審被告銀行に対する請求及び一審被告銀行の乙事件一審被告らに対する請求をいずれも棄却する判決を言い渡した。

これに対し、一審原告ら及び一審被告銀行がそれぞれ控訴を提起し、原判決を取り消した上、それぞれの請求を認容するよう求めた。」

三  争点及びこれに関する当事者の主張

原判決「事実及び理由」欄第二「事案の概要」の三「争点」(原判決九頁四行目から一二頁一〇行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

四  当審における当事者の主張

1  一審原告A、同B及び同Cの主張

(一) 銀行預金相続手続に必要な書類

どのようなケースでも、被相続人の戸籍謄本及び除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書(提出を受ける書類に署名する人のもの)が常に必要とされる。

(二) 遺言執行者からの請求に対する銀行の取扱基準

この場合の取扱基準及び徴求書類は次のとおりである。

① 遺言書原本の提出を受け確認する。

② 遺言執行者から相続届及び領収書(又は払戻請求書)の提出を受ける。

③ 相続預金の証書の提出及び預金届出印の提示を受ける。

(三) 一審被告銀行は、Kの戸籍謄本のみならず、被相続人の死亡を確認し、相続人を確認するための戸籍謄本類を一切徴求していない。これらの書類をI弁護士から徴求していれば、一審被告銀行はK死亡の事実を容易に知ることができた。そうすれば、I弁護士の提示した遺言書の有効性について疑義のあることが判明したはずである。

一審被告銀行は、基本的な事項を何ら調査せず、漫然とI弁護士の言を盲信して、一審原告らに帰属すべき預金を同弁護士に払い戻したのであり、一審被告銀行に過失があることは明らかである。

(四) 遺言執行者からの預金払戻請求手続においては、遺言執行者から「相続届」を徴求するのが一般的取扱いであるが、同届には、受遺者の署名押印をも要し、さらに各署名者の印鑑証明書を添付することとされている。この場合、最低限受遺者の保証を徴求することとされている。

ところが、一審被告銀行は、右相続届をI弁護士から徴求せず、同人による預金払戻しの受領書(乙一)と同人の印鑑証明書のみで預金の払戻手続を行っているのである。一審被告銀行が、一般的な銀行の取扱基準に従って相続届出書の提出又はKの保証を求めていれば、その時点でKの死亡の事実を認識し得たはずである。

(五) 銀行は、法律的な見解についていつでもアドバイスを求めることのできる優秀な顧問弁護士を抱えており、本件のように解釈が分かれる法律問題であっても、判断をなしうる能力を有する。その点で銀行は一般市民とは全く異なる立場にある。したがって、原判決がいうような「解釈上のリスクを銀行に負担させるのは適当でない」とする考え方は間違いである。

右のような場合は、銀行としては、預金の払戻しを一時留保するか、債権者不覚知を供託原因として供託をすべきである。

このような方法を選択せず、遺言執行者のいうがままに預金の払戻しに応じたからには、その銀行は自らのリスクにおいて遺言執行者に預金の払戻しをしたものというべきである。

(六) なお、一審被告銀行は、I弁護士にKの連署を求めた旨主張しているところ、この時、I弁護士は、Kが既に死亡していた事実を一審被告銀行に説明したと考えるのが自然である。したがって、一審被告銀行は、自らの二重払のリスクを覚悟の上で本件支払を実施したものというべきであり、一審被告銀行に過失があることは明らかである。

2  一審原告Dの主張

(一) K死亡の場合に、第一遺言が効力を持たないことは、法律の規定を待つまでもなく自明である。KがJよりも先に死亡していた事実を一審被告銀行が認識したならば、自称遺言執行者のI弁護士の支払請求に応じなかったはずである。

(二) 相続問題処理に当たる実務者の最初の作業は、被相続人の除籍謄本及び法定相続人の戸籍謄本の収集であることは言を待たない。特に、本件のような遺言執行者のある遺言書の場合、銀行は、全相続人の戸籍謄本を必要徴求書類として取り寄せるものとされている。一審被告銀行は、最初の段階で右の作業を怠り、Kの生死を確認しなかったのであるから、一審被告銀行に過失があることは明らかである。

3  一審被告銀行の主張

(一) 権利の濫用

長男Lではなく、孫の乙事件一審被告Fらに自己の財産を相続させたいとのJの願いが異常なまでに強かったことを考慮すると、一審原告らがこれを無視し、形式論を盾にとって法定相続分に従って本件預金の払戻しを請求することは、信義誠実の原則に反し、権利の濫用に当たるというべきである。

(二) 一審原告A、同B及び同Cの主張について

(1) 各銀行に共通する銀行預金相続手続の一般的基準など存在しない。

また、銀行がとっている相続預金の払戻しの徴求書類、手続は、主として銀行の安全性の側面から決められているものであり、各銀行により、また事例により異なる。したがって、一審原告らが主張するような一般的基準に従わなかったから過失があるというようなものではない。

(2) 本件預金の支払について

(ア) 遺言執行者の権限が銀行預金債権に及ぶ限り、その処分についての同意なり承諾なりの権限は、すべて遺言執行者に属する。したがって、この場合には、銀行側としては、全相続人の同意書の徴求という通常の手続による余地はない。このような法律的見解に従えば、遺言執行者が遺言状を提出し、遺言者の死亡を証明すれば銀行は遺言者の預金を遺言執行者に支払わなければならないし、また、支払えば免責されることになる。

したがって、必ずしも法定相続人が誰であるかも知る必要がなく、それらの戸籍謄本を徴求することも要しないし、受遺者あるいは特定相続人の同意書、印鑑証明書を徴求する必要もないはずである。現に、実務においても、遺言執行者が存在する場合には、遺言書及び家庭裁判所の検認証明書と遺言執行者単独署名の手続依頼書に被相続人の除籍謄本、遺言執行者の印鑑証明書を添付して提出させるのみの銀行も多く存在する。そして、これらの取扱いは、各銀行に原則があるとしても、遺言執行者の社会的地位や信用力を勘案して判断することになっており、特に、弁護士が遺言執行者であれば、間違いないであろうと考え支払っているのが実情である。

(イ) 本件においては、I弁護士が、一審被告銀行に対し、Jの東京家庭裁判所の検認の証明書のついた自筆証書遺言状(乙三)を持参し、本件預金の払戻しを請求した。これに応対した担当者のMは、I弁護士から、同弁護士が亡Jの遺言の遺言執行者であることを証明し、Jの預金の払戻請求と、これについて一切の責任を負う旨の「証」と証する書面(乙一)及びI弁護士の印鑑証明書(乙二)を受領したほか、遺言状に基づいて財産を受領することとなっているKの右「証」への署名、捺印とKの印鑑証明書の提出、Jの除籍謄本の提出を求めた。

これに対し、I弁護士は、既に裁判所で遺言状の検認を受けており、相続財産の管理、処分権は遺言執行者にあるのだから遺言執行者の提出書類で十分である旨主張した。

一審被告銀行は、検討した結果、裁判所による遺言状の検認がされているので、Jが死亡したことはそれにより確認できること、特定相続人Kの同意は法律的には必ずしも必要ではないし、遺言執行者が弁護士という信頼性の高い地位にある法律専門家であることを考慮し、I弁護士に本件預金を支払った。

以上の手続は、何ら異常なものではなく、正当な手続である。

(ウ) KがJ死亡以前に既に死亡していたことにより第一遺言が無効になるとしても、Kの戸籍謄本をI弁護士から徴求しなかったからといって、同人が有効な遺言執行者であると信じたことについて、一審被告銀行には過失はない。

そもそも、Jより若いKがJより先に死亡しているとは一般に考えないし、I弁護士からその点について何らの報告もなく、そのような素振りも見られなかったばかりか、特定相続人たる長女KがJより先に死亡していた場合に、遺言の条項が無効になるか否かについては明文もなく、判例・定説が存在しなかったのであり、むしろ、これを有効とする方が合理的と解することができる状況であったから、Kが先に死亡していることから、第一遺言が無効になり、I弁護士が遺言執行者としての地位を失うかもしれないという点まで考慮して、ぜひとも長女Kの戸籍謄本を要求すべきであるとはいえない。

(三) 一審原告Dの主張について

右(二)に述べたとおり、右主張は失当である。

第三争点に対する判断

一  当裁判所も(第一遺言及び第二遺言はいずれも効力を有しないものの、一審被告銀行のI弁護士に対する預金の支払は、債権の準占有者に対する弁済として有効であるから、一審原告らの一審被告銀行に対する請求及び一審被告銀行の乙事件一審被告らに対する請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次の二のように原判決について訂正、付加をし、三のように当審における一審原告らの主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄第三「争点に対する判断」の説示(原判決一二頁一二行目から一八頁六行目まで)と同一であるから、これを引用する。

二  原判決に対する訂正、付加

1  原判決一四頁三行目の「証拠もはない」を「証拠はない」に改める。

2  同一四頁四行目の「第二遺言の印影は」を「現在第二遺言のJ名下に認められる印影様のものは」に改める。

3  同一五頁三行目の「被相続人と特定相続人の関係」を「被相続人と特定相続人との関係」に改める。

4  同一五頁一二行目の「第一遺言」の次に「(乙三の一ないし四)」を加える。

5  同一七頁六行目の次に改行して次の説示を加える。

「(なお、I弁護士の原審供述中には、Kの戸籍謄本の写しを一審被告銀行にとってもらったとの部分があるが、弁論の全趣旨によれば、Kが当時死亡していた点について一審被告銀行側とどのようなやりとりがあったのかに関し、I弁護士の記憶は現在必ずしも万全でないものと認められ、I弁護士の右供述は直ちに採用できない。)」

6  同一八頁六行目の次に改行して、次の説示を加える。

「四 争点4について

一審被告銀行の乙事件一審被告らに対する請求は、Jの預金の支払が弁済として無効であることを前提とするものであるところ、前項に説示したとおり、右支払は債権の準占有者に対する弁済として有効であり、一審被告銀行はこれにより右預金の返還義務を免れたものである。そうすると、乙事件一審被告Fらに対する関係では、一審被告銀行には何ら損失がないから、同被告らに対する不当利得返還請求は理由がなく、また、乙事件一審被告Iとの関係においても、一審被告銀行には損害がないから、同被告に対する不法行為に基づく請求は理由がない。」

三  当審における一審原告らの主張に対する判断

1  一審原告A、同B及び同Cの主張について

(一) 右一審原告らは、一審被告銀行が基本的な書類であるKに関する戸籍謄本の提出を受けていれば、第一遺言の有効性について疑義のあることが判明したはずであるから、漫然とI弁護士の言を盲信して預金を同弁護士に払い戻した点に、一審被告銀行の過失があると主張する(右一審原告らの主張(1)、(3))。

確かに、証拠(甲二の一ないし三)によれば、銀行預金が相続された場合の手続について解説した文献の中には、どのような場合でも相続人の戸籍謄本は常に必要である旨記載したものがあることが認められるが、他方では、証拠(甲四、乙四ないし乙七)によれば、預金の相続において各銀行がとっている手続は自己防衛の観点から決められているものが多く、実際には、各銀行、各事例ごとに手続は様々であり、統一された手続が存在するわけではないものと認められる。したがって、本件において一審被告銀行がKの戸籍謄本を求めなかったこと自体が直ちに一審被告銀行の過失に結びつくものではない。

しかして、本件においては、第一遺言によりI弁護士が遺言執行者として指定されていたのであるから、一審被告銀行のJの預金についても遺言執行者であるI弁護士の権限が及ぶ関係にあったところ、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができず、遺言執行者は相続人の代理人とみなされるから、遺言執行者から遺言執行として預金の払戻請求があった場合には、銀行は払戻を拒むことができない。したがって、この場合には、遺言執行者と称する者が真実遺言執行者であるかどうか、すなわちその者が遺言執行者として預金の払戻しを受けることができる権限を有するかどうかが重要な点であり、相続人が誰であるかは、右のとおり相続人には当該預金の管理処分権がない以上、重要ではないということができる。したがって、銀行に、相続人を確認するため、その戸籍謄本を要求するまでの一般的な必要性があるとはいえない。

また、本件でI弁護士の権限が問題になるのは、相続人であるKが被相続人であるJよりも先に死亡したことにより第一遺言が効力を生ぜず、その結果同弁護士に対する遺言執行者の指定も効力を生じないという関係にあることによるものであるところ、原判決が説示するとおり、このような場合については明文の規定がなく、この点については当時解釈が分かれていた状況であったから、一義的かつ明確にI弁護士に遺言執行者としての権限がないと認識できる状況ではなかったというべきである。したがって、一審被告銀行が、同弁護士の預金払戻請求を遺言執行者としての正当な権利行使であると判断し、右のような例外的な事情まで慮って調査せず、法律専門家であるI弁護士の権限を信頼して預金の払戻しをしたとしても、その点に過失があったということはできない。

(二) また、右一審原告らは、一審被告銀行が、一般的な銀行の取扱基準に従って相続届出書の提出又はKの保証を求めていれば、その時点でK死亡の事実を認識し得たはずであり、一審被告銀行にはこの点で過失があると主張する(右一審原告らの主張(二)、(四))。

しかし、前示のとおり、遺言執行者からの預金払戻請求の場合に一般的によるべき確立された基準があるとは認められないし、遺言執行者に預金払戻の権限がある場合には、右一審原告らがいう相続届出書の提出又は相続人の保証を重ねて求めることは法律上できないから、一審被告銀行がこれらの書類の提出を求めなかったとしても過失があるということはできない。そして、KがJよりも先に死亡していた点についても、右(一)に説示したとおり、そのような事情まで調査せず預金払戻しをしたことに関し、一審被告銀行に過失があったということはできない。

(三) 右一審原告らは、本件のような場合には、一審被告銀行としては、預金の払戻しを一時留保するか、債権者不覚知を原因として供託すべきであったと主張する(右一審原告らの主張(五))。

しかし、前示のような当時の事情の下においては、一審被告銀行として必ず右の措置をとらなければならなかったとはいえず、現に一審被告銀行がとった措置についても、過失があったとはいえないとするのが妥当である。

(四) 右一審原告らは、I弁護士はK死亡の事実を一審被告銀行に説明したから、一審被告銀行は二重払のリスクを覚悟で本件支払を実施したというべきである旨主張する(右一審原告らの主張(五))。

しかし、I弁護士がK死亡の事実を一審被告銀行に説明したとは直ちに認めることはできない。また、前示の支払の経過からすると、一審被告銀行が二重払の危険を覚悟で本件支払をしたものと認めることもできない。

(五) よって、右一審原告らの主張はいずれも理由がない。

2  一審原告Dの主張について

(一) 一審原告Dは、第一遺言が効力を持たないことは自明であったと主張する。

しかし、前示のとおりそのように解することはできず、一審被告銀行がI弁護士の権限に信頼して預金払戻しをした点に過失はなかったというべきである。

(二) 右一審原告は、一審被告銀行は、Kの戸籍謄本を収集して、Kの生死を確認しなかったから、一審被告銀行に過失があると主張する。

しかし、この点について一審被告銀行に過失があったといえないことは、右1の(一)で説示したとおりである。

(三) よって、右一審原告の主張も理由がない。

第四結論

以上の次第で、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 岩田好二 橋本昌純)

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